ここから本文です

将棋連盟がスマホ不正疑惑で指した“悪手”を検証する

ダイヤモンド・オンライン 1/11(水) 6:00配信

● 「不正はなかった」のに 「処分は妥当」はありえない

 昨年12月27日、将棋のプロ棋士・三浦弘之九段が対局中にスマートフォンを使用する不正を行ったのではないかという、いわゆる「スマホ疑惑」に関して、将棋連盟が調査を委嘱した第三者委員会は、「三浦九段が不正を行ったという証拠はない」との調査結果を発表した。同委員会は、同時に、竜王戦(読売新聞社主催)の挑戦手合いをはじめとする複数の公式戦について三浦九段を年末まで出場停止とした日本将棋連盟の処置は妥当だったとの見解も公表した。

 三浦九段及び家族をはじめとする関係者が被った名誉・経済・精神の被害は莫大なものだ。なにはともあれ、同九段の名誉の回復についてやっと正しい初手が指されたことは、よいことだった。その他の被害に関する補償についても、将棋連盟は最大限の誠意を示すべきだろう(金銭に換算するなら一億円でも安いと筆者は考える)。

 さて、第三者委員会の報告書だが、「三浦九段に不正の証拠なし」と述べることと、それでも「三浦九段の出場停止決定が妥当だ」と述べることが、両立するようには到底思えない。谷川浩司・日本将棋連盟会長は、竜王戦挑戦手合いの最中に問題が表面化しかねなかったことや週刊誌に記事が出そうであったことなどを当時の判断材料としてあげているが、公正を第一とすべき勝負の世界で、例えばその竜王戦は不可解な形で挑戦者が変わったのだから、「処分」と言おうが「処置」と言おうが、少しも妥当でなどなかった。

 日本将棋連盟のケースに限らないが、不祥事の当事者が任命する第三者委員会の納得性の乏しさをあらためて印象づけた(今回の一連の事態は日本将棋連盟も一方の被告である)。

 率直に言って、問題の、取り上げ方も、その後の措置も、決着させようとしている方法も、日本将棋連盟は「失敗した」。

 なお、一将棋ファンとして申し上げると、心中不本意な思いで竜王戦の挑戦手合いに臨んだにちがいない丸山九段は、一局目こそ気乗りがしないかのような敗戦であったが、二局目以降、最終の第七局まで素晴らしい将棋を見せてくれた。彼が取った行動は妥当だった。今は、「おつかれさま」と申し上げて、同九段の今後の活躍に大いに期待したい。

 さて、本稿では、主として日本将棋連盟が「なぜ」・「どこで」間違えたのかについて検討して、日本将棋連盟以外の組織にも参考となる「教訓」を探したい。将棋では、敗因となった悪手の特定と、その悪手を指した原因を探るために通称「感想戦」(対局者による局後の検討)を行うが、感想戦は、次に悪手を指さないことを目的として行うものだ。

● 将棋連盟の第一の失敗は 弁護士に相談しなかったこと

 日本将棋連盟は、公益社団法人であり高い知名度を持っているが、ビジネスとしての実質は売上27億5000万円(平成27年度、経常収益合計)程度の中小企業だ。

 中小に限らず、企業が判断のミスを犯すことは多々ある。日本将棋連盟は、今後、今回の問題の教訓を活かして、経営を改めて発展を目指すといい。

 有力棋士による、三浦九段への疑惑の問題提起を受けた時に、日本将棋連盟が第一に失敗したのは、簡単な話で気が引けるが、「弁護士に相談しなかったこと」だろう。三浦九段の問題を報じた『週刊文春』の記事によると、有力棋士に不正の疑いを告げられた連盟の理事は、理事会及び有力棋士数名で、即ち仲間内だけで、問題を解決しようとしたようだ。

 弁護士であれば(弁護士でなくても普通のビジネスパーソンでもだが)、証拠も三浦九段本人の同意もないまま、問題を三浦九段に不利な形で表面化させたなら、三浦九段の権利を侵害したとして日本将棋連盟が訴えられて負けるリスクが大きいことを指摘したはずだ。日本将棋連盟は、自らの法的なリスクに対して、全く無防備だったと言わざるを得ない。

 企業の場合も、社員や顧客に対して著しく不利益となる行動を取る場合(たとえば、社員の解雇など)、自らに法的なリスクがないかを確認するのが常識だ。

 日本将棋連盟のサイズのビジネスで、専門の法務部門を持つ必要まではないと思うが、現役選手(つまりプロ棋士)同士の利害が対立する問題が起こりやすいビジネスだし、著作権などで微妙な問題が起こってもおかしくないのだから、法律家を理事会に加えるような取り組みが必要なのではないだろうか。

 また、棋士間のトラブルを、現役の棋士が行う対局の立会人や、現役の棋士で構成される理事会で裁定する運営の方法にも問題があるように思われる。

1/5ページ

最終更新:1/11(水) 6:00

ダイヤモンド・オンライン

記事提供社からのご案内(外部サイト)

週刊ダイヤモンド

ダイヤモンド社

17年1月21日号
発売日1月16日

定価710円(税込み)

特集 天才・奇才のつくり方
お受験・英才教育の真実
特集2 村田 vs TDK
真逆のスマホ戦略の成否

Yahoo!ニュース公式アプリ

都道府県ニュース、防災情報もこれひとつ!