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「トランプ大統領」との正しい付き合い方は? 

東洋経済オンライン 1/12(木) 15:00配信

 ドナルド・トランプ米大統領が今月就任するのに伴い、米国はここ数年で最大の分断に見舞われるだろう。米国最古の敵であるロシアがこれほど歓迎し、米国の同盟諸国がこれほどまでに神経をとがらせる大統領就任は、かつてなかった。

 そして、全体の得票数が対立候補をこれほどまで下回ったのに当選した米国大統領も、かつて存在しなかった。ヒラリー・クリントン候補の全米得票数は280万票ほどトランプ氏を上回っていたのだ。この状況を民主主義に基づく結果だと認めるのは、ロシア政府だけだろう。

 大統領が一般投票ではなく、選挙人団方式で選ばれるのは周知の事実だ。米国の建国の父たちはこの制度を、州ごとの支持のバランスをとる妥協策として創設した。だが、この考え方は今回、皮肉な結果をもたらした。

 トランブ氏は地滑り的な勝利を収めたと主張している。しかし、実は際どい勝利に過ぎなかった。

■「米国を再び偉大に」の中身とは

 トランプ氏が掲げた「米国を再び偉大にする」というのは、どうやら、エリート主義者を政府から追放し、閣僚に億万長者やゴールドマン・サックス出身者を起用することらしい。そして、景気を刺激し、35%の輸入関税を課すことらしい。

 さらに、鉄鋼労働者や鉱夫の雇用を回復させ、マイノリティ優遇をやめ、非正規の移民をすべて国外追放し、減税を行い、インフラ支出を何十億ドルも増やし、医療保険制度改革(オバマケア)を廃止し、国家債務やテロ対策を見直すことなども意味するようだ。

起きてしまったことを悔やむよりも...

 ワシントンDCのすべての人々は2017年に、不快なツイートや嫌悪感たっぷりのメール、そしてオンライン攻撃を受けないために、トランプ氏とうまくやった方が良い。そして、大統領選に対するロシアの悪意ある干渉と、ロシアのプーチン大統領に対するトランプ氏の親密な姿勢との関連性を疑ったりするのは、災いのもとだ。

 CIA(米中央情報局)とFBI(米連邦捜査局)が、ロシア当局が民主、共和の両党をハッキングして民主党の電子メールだけを流出させたと結論づけたことは、気にしないことだ。同じくオバマ大統領が現在、ロシアによる関与の詳細に関する報告書を公表して、ロシアの諜報機関への制裁を実施したことも、気にはとどめないでおこう。

 この重大な問題の調査はトランプ氏の大統領就任後も続けられ、情報漏洩に関する話題が数多く出てくるだろう。そのいくつかは事実とは違うかもしれないが、恐るべき真実が明らかになるかもしれない。いずれにせよ、この問題は、米国内の分断を助長するものとなろう。

 だが、トランプ氏の選挙活動と、プーチン大統領が指示したとみられるロシアの諜報活動との関連性が立証されない限り、トランプ氏は嵐を乗り切るだろう。

 乱暴な表現かもしれないが、われわれは話が逆でなかったことに感謝しなければならないのかもしれない。トランプ氏が全米の得票数で勝ったものの選挙人団方式では僅差で敗北したと想像してほしい。ロシアの諜報機関がトランプ氏の選挙活動に関するメールを漏洩させた結果、クリントン氏が当選して億万長者を閣僚に据えた政権を作り上げたと想像してほしい。

 その場合、トランプ氏は、クリントン氏とその夫は腐敗した殺人犯なのだと支持者に訴えていただろう。このような逆転現象が起きていたら、筆者が長年敬愛してきた米国は、憂慮すべき事態に追い込まれていただろう。

■ニュースとの付き合い方も変わる

 では、これからの暗い時代にできることは何か。まずは、ウソを許さないようにしよう。ソーシャルメディアにニセと思われる情報が出ていれば、事実と照らし合わせてほしい。仕事仲間がニセのニュースの見出しや無知に基づいて偏見のある主張を繰り返している場合は、その仲間と議論してほしい。

 テレビやラジオのニュース番組が真実を歪めている場合は、電話をかけて、彼らと広告主にあなたの考えを伝えよう。牧師やほかの地域の指導者にも、同じことをするよう頼んでほしい。

 われわれは市民として真実を追求し、偏見やごまかしに対抗せねばならない。真実が失われれば民主主義は片隅に追いやられるからだ。

 ローマ時代の神学者、聖アウグスティヌスは「真実とはライオンのようなもので、わざわざ守ってやる必要はない。そのままにしておけばよい。ライオンは自分で身を守るのだから」と語った。

 だが、われわれは2017年に、ライオンの檻を開けねばならないのだ。

クリス・パッテン

最終更新:1/12(木) 15:00

東洋経済オンライン