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映画だって観る。美談にされるのは真っ平だ。 第5回<高野病院日記>

幻冬舎plus 2/17(金) 6:00配信

中山 祐次郎

 福島第一原発から22キロ、福島県双葉郡広野町にある高野病院は、震災後も1日も休まず診療を続けてきました。病院でただ1人の常勤医として、地域の医療を担ってきたのは高野英男院長。その高野院長が、2016年末に火事でお亡くなりになり、病院の存続が危ぶまれる事態になりました。その報に接し、2017年2月~3月の2カ月間、高野病院で常勤医として働くことを決めた中山祐次郎さん。中山医師が、高野病院での日々を綴ります。

【Day 12】

 東京で過ごす日曜日。福島にいて東京に戻ると、やっぱり人が多くて大きな建物があるな、と驚く。そんな数日だけ福島に行っただけで何を、と言われそうだが、実感としてそうなのだからしょうがない。

 東京には食事をするところもたくさんあるし、いろんな人がいる。外国の人もいるし、よく分からない人もいる。日本は多様性のない均一な国家だという意見があるが、東京にいる限りはそんなことはないと感じる。

 これまで多分1000人以上の人と東京で出会ってきた。自慢ばかりする人、謙遜してばかりなのにすごい人、お金を無限とも言っていいほど持っている人……東京でいろんな人に会って思ったのは、「人は自分の人生を生きていい」ということ。好きなように生きていいということだ。

 映画を観に行った。いまさらだが、去年の夏に流行った「君の名は。」だ。とても面白かった。興行収入が100億円を超えて驚いていたら、もう200億円も超えたそうだ。これで監督ほかクリエイターの方々の中には、億単位の収入を得る人もいるだろう。だとしても、一生遊んで暮らせるほどの額ではない。こんな、空前絶後の映画を作って、日本中、世界中で見られても一生食えるだけの金は手に入らないのか。

 映画を観たことなんて日記に書いて公開したら、必ず「そんな時間があったら仕事しろ、患者さんのところへ行け」と批判されるだろう。しかしちゃんとバランスをとらないとね。滅私奉公のような美談にしたがるメディアは多いが、それに乗っかるのは真っ平だ。友人の、テレビ番組を作る人が「世間の、美談として消費しようとする欲望」という言葉を使っていた。なるほど、まさに。

 夜の最終電車で福島へ戻る。ぼんやりと特急「スーパーひたち」に乗っていると、不思議な気持ちになる。だって、2時間ちょっと座っているだけで、全く別の土地に行くのだから。これはワープだ。そんなことを考えて幻想的な気持ちになっていたら、土浦(つちうら、上野の次の駅)で隣におじさんが座ってきた。そのおじさんのいびきがひどくて、幻想から現実へと戻された。

 いわき駅で降り、向かいに止まっている常磐線に乗り換える。ボタンを押してドアを開け、乗ったらボタンを押してドアを閉めるのにはもう慣れた。そのドアシステムのおかげか、電車の中はとても暖かい。東京にいる時のほうが寒いような気さえする。

 部屋に戻り、テレビを観ていたらいつの間にかコタツで寝てしまっていた。

 【Day 13】

 朝の渋滞の中、病院へ。今日も福島は快晴だ。僕がこちらに来てから、一度雪は降ったものの、後はとてもいい天気が続いている。何故だろう。たまには雨が降ってくれたっていいのに。

 民医連から支援に来てくれている先生とお会いし、ご挨拶をする。それから内科2箇所、精神科1箇所の3箇所をまわり、リーダー(看護師さん)から報告を受ける。「ネッパツ者が2名おりまして……」このネッパツという言葉、いつ誰が使い出したんだろう。発熱という意味だが、何故か病院関係者でネッパツと言う人は多い。不思議な用語。

 それから病棟の指示などを民医連の先生にお願いし、僕は外来へ。途中、他県の住所で受診された方がいた。詳しく聞いたら、復興作業関連の仕事で今だけ広野に滞在しているそう。これはこの病院の特殊性だろう。やはり高野病院は住民3000人だけでなく、正確な人数がわからない復興関連で来ている人たちもカバーしている。

 それから、先週転んで怪我をした高齢者が受診。「新しい先生が外科だって聞いてよぅ」幸い怪我は大したことがなかったが、聞くと「いやあ、週末はお医者さんもいねえと思ったから待ってたっぺよぅ」とのこと。「今度から、週末でも夜でも連絡してくださいね」と伝えた。高齢の方に限って、病院や医者の都合を気にして我慢してしまうのだ。うーん。

 お昼になり食堂へ。今日はなんと、蕎麦が出た。さらに混ぜご飯まで!!  旨くてお代わりしようか迷ったが、ダイエット中(万年)だったので断念した。本当に、お世辞ではなくこの病院のご飯は美味しい。私を含む職員は患者さんと同じものを食べているが、本当に美味しい。

 午後は患者さんの内服薬にメスを入れた。メス持ってないけど。なぜ続いているのかわからない胃薬や、降圧剤などを整理したのだ。

 ポリファーマシー。高齢者が9種類も10種類もたくさん薬を飲んでいることを言う。これについてFacebookで先日教えを請い、教科書を数冊買って勉強したので、それを少しずつ導入する。原則的に6種類以上の薬を飲んでいる人は5つ以下になるように。これで変化がどうあるか、注意して診ていかねばならない。おそらくほとんど変化はないだろうが。

 夕方、病院の前の駐車場へ出た。つんと空気は冷えていた。2月の西陽が、松の木の隙間をぬって僕を照らした。しばらくそうしていたかった。

 院内に戻り、書類仕事をし、患者さんのところをぐるっと回り業務終了。


■中山 祐次郎
1980年、神奈川県生まれ。横浜で汽笛を聞きながら青春時代を過ごし、聖光学院中学・高等学校を卒業後、2年間の代々木ゼミナール横浜校での浪人生活を経て、国立鹿児島大学医学部医学科に入学、2006年に卒業。その後、がん・感染症センター都立駒込病院外科初期研修医・後期研修医を修了。同院大腸外科医師(非常勤)として、臨床、研究、学会発表、研修医指導に多忙な日々を送る。資格はマンモグラフィー読影認定医、外科専門医、がん治療認定医。2017年2月、2カ月間の予定で福島県双葉郡広野町の高野病院院長に就任。2017年4月からは同県郡山市の総合南東北病院に勤務予定。

最終更新:2/21(火) 18:55

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